最前線コラム

新技術 オイル循環率(OCR)測定 音速センサによるエアコン開発アプリケーション【アントンパール・ジャパン】

はじめに

 カーエアコンをはじめとする空調冷凍機では、コンプレッサで冷媒を加圧し、コンデンサで放熱し、エキスパンションバルブでエバポレータへ一気に噴射させて冷媒を気化させる機構を有している。このような機構において、コンプレッサ内で冷媒を加圧する際にコンプレッサの機械的潤滑性を確保するため、別に潤滑剤としてオイル(冷凍機油)の添加が必要不可欠である。一般的にオイル量が十分であればコンプレッサに対しては機械的な負荷が避けられるが、オイルは基本的に熱伝導率が低いため、システム内を循環する際には冷媒の効果を下げてしまう。よって、システム内を循環するオイルの濃度、循環率(Oil Circulation Ratio:OCR)の最適化が求められている。

 このような冷凍サイクルは密閉系でありながら種々の条件によりオイル循環率は変化するため、OCR はシステムの健全性の指数として、カーエアコン開発において非常に重要なパラメータとして認識されており、これまでも様々な測定方法が実用化されている。

 本稿ではこのオイル循環率の測定について、音速センサを用いた手法について紹介する。

  

  

  

従来の測定方式

 従来の冷媒内のオイル循環率の測定方法としては、JIS B8606 のキャッチタンクによるサンプリング方式がもっとも一般的である。この方式は真空の耐圧容器に冷媒とオイルをサンプリングした後、冷媒を気化させて残ったオイルの量を重量で測定するというものである。シンプルな方法のため広く使われているが、以下のような問題点もあった。

 ● 循環している動的なサンプルに対して、静的な1点しか測定できない =トレンドの
  把握ができない。
 ● 手作業が多いため、操作ミス、個人誤差が大きい。
 ● 冷媒の気化による環境負荷、作業者への影響が大きい。
 ● 実際に冷媒を抜くため連続して再測定することが難しい。

 特に、センサによって連続的に濃度を測定できることのメリットは大きいため、様々なセンサによる測定がされてきた。光学式センサを中心に種々方式があるが、広く業界で使用されるには至っていない。その理由として以下のような理由がある。

 ● 安定して高精度で測定することができない。
 ● 機器の洗浄が必要でメンテナンス箇所が多い。
 ● 蛍光剤を添加すると測定できない。もしくは、蛍光剤を添加しないと測定できない。
 ● 冷媒種が変わると、装置ごと新設する必要がある。
 ● 汎用性がないため、高額である。

そこで、弊社は国内外ですでに多くの実績がある音速式濃度センサを用いた測定を提案する。

音速式濃度センサとは

 音速式濃度センサは国内外で各種産業において非常に多くの実績がある。ビール製造における麦汁濃度の調整や出荷前の製品濃度管理、そして化学プラントにおける各種酸や塩基、有機溶媒などの濃度管理、加えて原油採掘現場など、幅広いアプリケーションを有している。 このセンサのメリットをあげると以下のようになる。

 ● 非常にシンプルな測定原理
 ● サンプルの組成に影響を与えない
 ● 消耗品がなく、メンテナンス不要
 ● 一般的に被膜や着色に強い構造
 ● 設置が容易で低コスト

音速式濃度センサの測定原理

 音速式濃度センサは音の進む速度を測定するセンサである。水の中と、空気の中では音の進む速さが違うということはよく聞かれるが、同じ液体でも濃度が変わると音の進む速度は異なる。音速式濃度センサはこの原理を利用して液体の濃度を測定する。
 センサは流通型で、チーズ配管状をしており、配管内をサンプルが通過する際に測定が行われる。センサ内には、音波発生部と、受信部、そして温度計が内蔵されており、毎秒毎に音の伝播時間を測定し、音速値の算出を行う。単位はm/s である。
 音速センサはこのアプリケーションにおいて、蛍光剤の影響を受けない。また、連続使用による配管内の「すす汚れ」の影響もほとんどない。多くのお客様が洗浄なしで何年も使用している。

オイル循環率の算出

 音速値はオイル循環率だけでなく、配管内の圧力、温度にも影響される。音速センサは温度計も有しているため、実際に設置が必要なのは、音速センサと圧力計である。この3つの値を元に多項式による濃度計算式により濃度が算出される。
 濃度計算式の作成に必要なのは、実際の冷媒、オイルによる3つの測定値の実測値である。アントンパールでは、第三者機関と協力して専用の実測装置を開発した。この装置は冷媒に対してオイル循環率、圧力、温度を任意に変化させることができる。コンプレッサを使用していないため、オイル循環率が0%の実測値を測定できるのもメリットである。これにより実際の冷凍サイクルでは測定ができなかった低レンジでの再現性を実現した。
 現在のところ実績が十分にある冷媒はR-134a と地球温暖化係数の低い新冷媒のR-1234yf である。これに、使用するオイルを提供して濃度計算式を作成する。R-134a については、オイルが確立されていることもあり、基本的にオイルの提供がなくても既存の濃度計算式を適応させることができる。
 濃度計算式を変更すれば、1つのシステムで複数の冷媒、複数のオイルに対応することも可能である。
例として、R-134a + PAG 系オイルでの濃度検量線の適応範囲は以下の通りである。

 ● OIL :0̃10%
 ● 圧力 :0̃30bar
 ● 温度 :20̃65℃

設置

 センサは気液混合部では測定ができないため、エキスパンションバルブの前段に取り付ける。音速センサは音速値と温度を測定し、専用の表示変換器に出力する。また、別付の圧力計からも出力を受け、表示変換器内でオイル循環率値に変換される。

センサ仕様

● 音速測定範囲
● 温度測定範囲
● 設置環境温度
● 対圧力範囲
● 推奨流量
● センサ内径
● 圧力損失
● 重量
● 接液材質
● 配管接続
200 ~ 1600m/s
-25 ~ 125℃
-25 ~ 70℃
0 ~ 50bar
200 ~ 1500L/h(Max 2500L/h)
14mm
0.1bar 以下(1mPa、100L/h)
約3kg
ハステロイC276
R ねじ3/4“(ISO228 平行ねじ)

変換器からの出力形式


● アナログ伝送出力4-20mA (アナログ0-5v)
● 各種フィールドバス
 (プロフィバス 、プロフィネット 、デバイスネット 、
  イーサネット/IP、モドバス 等)
● 本体内にデータを保存
 (USBメモリにCSV 形式出力可能)

  

  

その他のアプリケーション

 アントンパールのプロセス計器はOCR センサーの他、自動車・自動車部品産業において以下のようなアプリケーションを有している。
 ● 燃費計算用密度計
 ● 燃料電池材用密度、粘度計
 ● 各種塗工プロセスの濃度管理
 ● めっきプロセスにおける最適化
 ● 圧延油の濃度管理

  

【株式会社アントンパール・ジャパン】
 水俣淳一 

2013年5月1日発行
次世代自動車技術最前線2013より転載